鉄鋼脱酸用として安定した需要があるフェロシリコンは、国内の鉄鋼電炉、高炉メーカーでは多くが入札形式をとる(中国で
も同様だが)。この場合、無論、最も安い価格を入れたところ(多くの場合は商社)に納入枠が与えられるのだが、最近、こ
のフェロシリコンの入札では驚くほどの安値入札が国内を席巻しているという。
合⾦鉄扱い筋によると
「現在のフェロシリコン価格は実勢でトン1380〜1400 ドル。日本円ではキロ140〜142 円というところなのだが、最近の
鉄鋼メーカーの入札ではキロ110〜115 円といった安値で落ちており⼿も⾜も出ない」と嘆く。
こ
この安値落札を積極的に⾏っているのは⼤⼿商社のMS 社。わかりやすくいうとMBS 社といったほうが良いだろうか。10 月
には⼤⼿商社系⼦会社と合併する同社の積極的な安値入札にはさまざまな憶測が流れている。
いわく、合併前に過去の高い在庫を⼀掃処分するための安売りではないか?不良資産の売却を進めるなかでの安売りではない
か?と聞くが、要は合併を前にして余計な在庫は⽚づけておきたいという意識が働いているのではないかと推量される。
そのフェロシリコン市場にはちょっとした異変が起きつつある。
中国のフェロシリコンメーカーは多く、輸出税逃れで雲南省〜ベトナムを経ていわゆる密輸脱税ルートで
日本はじめ諸外国に廉価販売していたことは周知の事実。2008 年頃からこの脱税密輸ルートが定着し、中国の⼤⼿メーカー
もこのルートで販売と脱税品が当たり前に市場に供給されていたのだが、昨今の中国vs ベトナムの政治的な不信感が、この
フェロシリコン脱税密輸ルートを閉ざそうとしている。
詳しくは下の記事を参考にしていただきたいが、中国当局は今後数か月、フェロシリコンの密輸ルートを徹底的に取り締まる
ことを発表している。
→(関連記事) 南シナ海衝突でフェロシリコン価格上昇機運 ベトナム密輸取締り強化
密輸脱税品が減少すればおのずとフェロシリコンの国際市場価格は上昇するものと思われる。
日本の高炉メーカーは2008 年の中国産フェロシリコン価格高騰時(4000 ドル近くまで暴騰)に中国の供給リスクを回避す
るために、当時は多少高めではあったがロシア、ブラジルとフェロシリコンの調達先を広げていった経緯がある。そのロシアもウクライナ問題に端を発して資源輸出リスクが生じている。5 年に⼀度相場が荒れるフェロシリコン。今後のフェロシリコ
ン市場の動向が注目される。
軽焼マグネシウム
軽焼マグネシウム(軽焼マグ、MgO)は重要なマグネシウム材料で、工業分野では、建築材料、マグネシアセメント、脱硫剤の他、硫酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、水酸化マグネシウムの原料として広く使われる。一方、農業分野では軽焼マグネシウムは単肥として使うことがほとんどないが、苦土含有量が高く、値段が安いため化成肥料およびBB肥料の苦土原料として使用される。
マグネシウムは葉緑素を構成する元素であり、葉緑素形成や新陳代謝に不可欠な物質である。
欠乏の場合は、葉が緑色から黄色くなり、光合成能力が低下する。また、細胞分裂の盛んな生長点等にりん酸の移動が阻害され、生育が悪くなる。軽焼マグネシウムは水に溶けないが、植物の根から出す根酸と土壌中の有機酸などの弱酸に溶解され、吸収利用することができるいわゆるく溶性の肥料である。以下は農業用軽焼マグネシウムの生産方法を論述するが、工業分野に使う高純度酸化マグネシウムは本書の記述範疇外にあるため、
その製造方法を省略する。
一.反応原理
軽焼マグネシウムはほとんどマグネサイト(Magnesite)鉱石を原料に600~900℃で焼成したものである。ドロマイト(Dolomite)またはブルーサイト(Brucite)を原料に焼成するところもあるが、製品品質(主にMgO含有量と異物量)または原料コストの面では劣るため、ヨーロッパの一部地域にしか生産しなかった。
マグネサイト(Magnesite)は、菱苦土石(りょうくどせき)ともいう。方解石グループに属する炭酸塩鉱物の一種である。組成は炭酸マグネシウム(MgCO3)であるが、一部のマグネシウムは鉄、マンガンに代替され、FeCO3、MnCO3を形成することもある。
三方晶系、比重3.0、モース硬度3.5~4.5。マグネサイトはタルク、ドロマイト、石灰石、緑泥石と一緒に産出することが多い。
マグネサイトを500℃以上に加熱すれば、二酸化炭素と酸化マグネシウムに分解し、二酸化炭素が揮発して、酸化マグネシウムが残る。
反応式:MgCO3→MgO+ CO2↑
マグネサイトの焼成温度は、生成した酸化マグネシウムの化学反応活性を強く影響する。概して焼成温度が高いほど生成した酸化マグネシウムの反応活性が弱くなる。
1200℃以上の高温で焼成した酸化マグネシウムは反応活性がなくなり、化学的安定性が高く、酸やアルカリには溶けないほか、耐湿性及び電気絶縁性に優れており、絶縁充填材や耐火煉瓦として用いられている。
このような化学反応活性を失った酸化マグネシウムは重焼マグネシウムとも呼ばれ、900℃以下に焼成したものと区別する。
600~900℃で焼成した酸化マグネシウムは、軽焼マグネシウムと呼ばれ、反応活性が高く、く溶性を有し、そのまま苦土肥料として使われるほか、硫酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、水酸化マグネシウム等の苦土系肥料の原料にもなる。
二.生産工程
軽焼マグネシウムの生産工程は非常に単純なものである。その概略は図1に示す。
採掘したマグネサイトを破砕機(1)で60~150mm程度に破砕してから600~900℃で焼成する。
焼成にはシャフトキルン(竪窯)(3)またはロータリーキルンを使用するが、熱エネルギー効率の良いシャフトキルンが多用される。シャフトキルンの構造は図2 に示す。
シャフトキルンの中間よりやや下に重油または天然ガスのバーナーが設置され、燃料を噴射して燃焼させ、高温の焼成区を形成する。
キルンの頂部には原料投入口があり、そこからマグネサイトを投入すると、まず熱で水分を蒸発させ、乾燥させる。
マグネサイトが下へ移動することにつれ、温度の上昇に伴いマグネサイトから二酸化炭素を離脱する反応が始まる。
燃焼バーナーのある焼成区に達すると、温度が600~900℃に達し、マグネサイトが分解し、酸化マグネシウムになる。
焼成区を通過すると、下から入ってきた外気が焼成した熱い酸化マグネシウムを冷やし、空気に熱を移すいわゆる熱交換を行い、燃焼効率をよくする。
キルンの底部分に機械式火格子があり、酸化マグネシウムをそこから回収する。炉頂に排気ファンがあり、燃焼した廃ガスと生成したCO2を排出する。
キルンの中にマグネサイトは上にあるエアロックから供給し、常に一定の量がキルン内にあるように調整する。
焼き具合は底から酸化マグネシウムを回収する速さで調整可能である。生産能力は100~500トン/日・キルンである。
ロータリーキルンを使う場合は原料であるマグネサイトの塊の大きさが従来よりも自由で、微細な粒子でもよいという利点がある。
しかし、シャフトキルンに比べると、熱が排気によって逃げる割合が大きいため、エネルギー効率はやや悪い。
生産能力1000トン/日・キルンが一般的である。
焼成した酸化マグネシウムを粉砕機(4)で80~180メッシュに粉砕して、軽焼マグネシウムとして出荷する。
三.生産工程の注意事項
1.原料品質
原料マグネサイトの品質、特に酸化マグネシウムの含有量が焼成した酸化マグネシウムの純度に大きく影響する。
通常、肥料用軽焼マグネシウムは酸化マグネシウム含有量を厳しく要求されていないため、く溶性苦土(MgO)が30%以上あれば、肥料として登録することができる。水酸化マグネシウムや硫酸マグネシウム、硝酸マグネシウムの原料として使用する場合は、マグネサイトのMgO含有量>46.5%、焼成した軽焼マグネシウムのMgO含有量が90%以上に達する必要がある。
2. 焼成温度
焼成温度は焼成した酸化マグネシウムの表面積、嵩比重、化学反応活性等を強く影響する。
例えば、焼成温度が600℃の場合は、製品の表面積が170m2/g、焼成温度が1300℃に上昇すれば、製品の表面積が3m2/gに急減した。
また、600~800℃で焼成したものの嵩比重が0.8~1.2g/cm3で、ぼくぼくの状態を呈するのに対して、1200℃以上で焼成した重焼マグネシウムの嵩比重が3.15~3.3/cm3に達する。
これは、マグネサイトが加熱により分解し、CO2が揮発して残ったMgOが形成した結晶格子構造によるものである。
低温で焼成したものはMgO結晶に欠陥と転位が多く、不揃いで空洞が多く、表面積が大きく反応活性が高い。
高温で焼成したものはMgO結晶がその逆である。
但し、焼成温度が低すぎると、マグネサイトに含まれるドロマイトやタルクが分解できず、未分解のマグネサイトもあり、製品のMgO含有量が下がる。
焼成温度を700℃~900℃に制御することが重要である。